
あるネット討論番組で
最近、あるネットの番組でドイツの現状について議論しているのを見ましたが、色々と驚くこともあり、ドイツ在住の人の意見も聞くことができました。しかしながら、ネット配信番組にも、右寄り、左寄りと色々と色がついているものだなと感じてしまいました。
ドイツに住んでいる日本人ももちろん様々な意見で分かれますし、ドイツ人でも全く違います。
その人が置かれている状況や生活レベルの面からしても、ドイツ国内の問題を違った角度で見てしまうことは当然かもしれません。
まずは、話されていたテーマを見ていきます。
ドイツ経済の状況
ネット番組では、ドイツの経済状況について話していました。最近では、フォルクスワーゲンが、国内の工場閉鎖で、解雇通達を受けた従業員はもとより、国民も大変なショックを受けているという話です。
これはいうまでもなく、工場を稼働するコストがこの10年で上がってきており、そこにきてロシアからのガスパイプラインが停止、さらには、原発を止めることが決まって、エネルギーの確保が難しくなっている状況と重なります。
では実際どうしているのかというと、フランスなどの近隣国からエネルギーを買っているわけで、自前のエネルギーよりも高くついています。
原発停止、Co2削減のための電気自動車の推進に伴うドイツ国内の充電ステーションのインフラ整備に巨額の予算を投入しましたが、これが裏目に出てしまいました。
Co2削減のために電気自動車を推進したのをいいのですが、その電力を賄うための原発が廃止され、火力発電を再稼働するという本末転倒なことが起きました。更には、風力発電も推進されて多くの会社が参入したにも関わらず、その多くは倒産しています。そもそも、嵐で風力発電の風車が壊れてしまうことや、思ったより電力が起こせないなど、課題だらけでした。
そこに来てロシアのガスパイプライン計画が潰れたわけで、泣きっ面に蜂です。
こうなるとドイツの製造業、特に自動車産業は大打撃を受けます。ドイツ国内で生産するメリットがなくなり、欧州の他の国へ工場を移設することになります。その動きは他の製造業でもみられ、ドイツ国内の雇用の喪失、法人税の減収とドイツ経済に徐々に打撃を与えてきました。
それが現在ドイツ経済が危機に面している理由の一つです。
責任は誰にあるのか?
ここからが本題というか、どうしてもここに繋げたかった意図が感じられるネット番組でしたが、話は難民の問題になりました。
かつてメルケル元首相が、難民をEUで受け入れましょうという提案をしたため、ドイツを中心に難民移民が大量に押し寄せました。
これはこれでキャパシティの問題もあり、実際大変なことになっています。それでも、先進国が助けの手を差し伸べることで、救われた命もあるでしょう。
ただ、こうした難民に混じって、テロを計画するような犯罪者も混ざり、ドイツ国内でもテロ事件が起きてしまいます。
当然ながら、ドイツ人の生活を脅かし、職を奪う難民、移民という論調になります。
難民を受け入れすぎたことは失策かもしれませんが、それと難民がドイツ人の職業機会を奪うこととは少し飛躍しすぎな気がします。
メルケル元首相の時は、移民政策以外にもたくさんの国内の政策を実施して、恩恵を受け、感謝しているドイツ人もいます。女性の地位向上、社会福祉の面でも貢献しました。当時は日本のメディアも称賛していたはずです。
ただ、外交は難民受け入れ政策は、ちょっと度が過ぎたかもしれませんが、こうした国内政治の実績を無視して、全てをメルケル元首相のせいにするのはどうでしょうか?国内の政策の実績など、日本に住んでいる人は全く知らないでしょう。
そもそも、Hartz4という、いわゆる生活保護を受けているドイツ人は、自分がドイツに住み始めた20年近く前からたくさんいます。
それは、職安から指定された仕事を一時的にやるよりも、支給金額が大きいため、わざわざやりたくない仕事をやるより、失業保険と生活保護を受けていた方が、遥かに楽なわけです。
そうした社会保障の恩恵を受けて、すでに20年以上前から怠けていたのはドイツ人であって、移民や難民のせいではありません。
そこをすっ飛ばして、ネットやメディアではドイツ人から職を奪う憎き難民と移民という構図ができてしまいました。
移民が増えた背景
そもそも、ドイツにはトルコ系の移民がたくさんいます。
かつて第2次世界大戦の際に、たくさんの若いドイツ兵が亡くなりました。国内の産業を復活させるための労働力がごっそり戦争で失われたわけです。
そこでドイツ政府は、トルコと協定を結び、ドイツの製造業のための労働力として多くの難民を受け入れた過去があります。
つまり、トルコ人の労働力無くして、フォルクスワーゲンやBMW、メルセデスなどの自動車産業は成り立たなかったわけです。
そうした背景を知らずか、無視してか移民や難民のせいにしているドイツ人や日本のメディアは、印象操作と言われても仕方ありません。
介護現場や清掃の仕事は誰がやっているか?
この職種も多くの外国人、移民がやっています。
それは、ドイツ人がやりたがらない職だからです。
良くも悪くも、階級社会のドイツですので、そうしたいわゆる皆が嫌う仕事を移民にやってもらっているのに、移民のせいにしてしまいます。
AFDを支持している人は、実は移民にも多い
こうした中、ドイツでは極右政党と言われているAFDの躍進が話題です。これをなぜか日本のメディアは、非常にポジティブでドイツ人にとって良い事として報道していますが、本当にそうでしょうか?
ドイツ人と結婚した外国人にこの極右政党の支持傾向が見られるのは、やはり階級社会である事と関係します。AFDを支持する移民の人は、社会的地位の高いドイツ人と結婚していることが多く、自身も移民であるのに、移民排除を平気で訴えます。つまり、自分は他の移民とは違う地位の移民であり、階級の高い移民であると主張したいわけです。
他の難民や移民を犯罪者扱いし、社会の癌だと思って見下しているのは明白です。
国内経済や治安状況が悪くなれば、必ず原因を探し誰かのせいにします。この傾向はどこの国でも同じです。
しかし、このAFDには、移民排除を掲げている極右政党でナチス崇拝者も多くメンバーに入っています。
仮にこの政党が第1党となり、AFDから首相が誕生し、公約に掲げた移民排除を実施すれば、その時点でドイツは破綻するでしょう。
ドイツ人がやりたがらない仕事に従事している人が国内からいなくなれば、誰がやるのでしょうか?
人のせいにするドイツ人
ドイツに暮らして最初から強く感じたのは、ドイツ人の責任転嫁体質です。都合が悪くなると人のせいで、責任を取りたがらず、謝罪もありません。
「私がやったわけではないから、私は悪くない」とある会社のマネージャーが言いましたが、その部署の責任はその人にあるわけです。
そして、じゃあ誰がやったのかと聞くと、部下のせいだと言います。
そして、その部下は、ほぼ例外なく、移民の人です。
つまり、優秀なドイツ人の私はマネージャーで、ミスをしたのは外国出身の部下だと。
これは面白いことに、どの会社や取引先、お店やサービスの現場でもマネージャーや責任者がドイツ人の場合起きています。
こんな経験を何度もしました。
人のせいにするのが得意なドイツ人ですから、仕事がないのも、治安が悪いのも、経済が悪いのも全て移民や難民のせいにします。
ただ、昔から怠けて生活保護の生活を選んだのはドイツ人自身です。(もちろんドイツ人全員ではありません)
外国人として暮らすには、正直非常に暮らしにくい国です。
差別ギリギリの「区別」をされて、苦い思いをした日本人の人も多く知っています。
このように時系列を逆にして議論してしまうと、全くおかしな議論になってしまいますし、ましてや日本に住んでいる人がドイツ国内の状況など、実感できるわけがありません。メディアの偏向報道も最近では知られている中、注意すべき点かもしれません。
ドイツ国内が大変な状況に置かれているのは間違いありません。
戦争や移民難民問題を今後どのように解決していくのか?EUのリーダー国として、ドイツの立ち位置が変わってしまうのか?
欧州圏に住む日本人にとっても人ごとではありません。